[目次]
はじめに
久しぶりの更新です。
さて、今回は私が好きなエロゲブランドである「ゆずソフト」の新作発表が物議を醸しているということで、ブログを書くことにしました。
かなりニッチな話題ではありますが、是非お付き合いを。
7月30日。YouTubeにて「yuzusoft公式チャンネル」から配信された「ゆず生ラジオ11th」で事件は発生した。この日の生放送において、ゆずソフト12作目の作品タイトルが発表されるという噂があったため、この放送はいつも以上に視聴者の期待を背負っていた(ゆずソフトの作品は1年半~2年のスパンで発売してきたから。前作「喫茶ステラと死神の蝶」の発売が2019年12月だったこともあり、発売周期的には問題なかった)。
ところが、そこで発表された主な情報は以下の通りであった。
・全年齢向け新ブランド「ゆずソフトSOUR」設立
・1作目「PARQUET」が7月30日同日をもって電撃配信
・パッケージでの販売はなく、データのみの販売
・二次元総合ダウンロードショップ「DLsite」にて音声作品の発売
・新作グッズ・フィギュアの販売
ここで特筆すべきは、2006年発売の「ぶらばん!」以降、15年間18禁ノベルゲーを作り続けてきたあのゆずソフトが全年齢向けゲームの製作に着手した点だろう。この点についてはユーザーの間で大きく物議を醸した。
・ブランドとしての新しい挑戦
・エロゲ業界が下火になっている今、合理的な判断の一つであり、可能性の模索である
と称賛・肯定する意見がある一方で、
・安易なロープライズへの打線変更
・OPのCGがクソ
・1年半以上待たせて新作発表じゃないのか
といった批判の声もある。
エロゲ業界の現状
実際問題、エロゲの市場規模は黄金期の2000年代前半と比較すると、年々減少している。*1
2000年代前半には、「Key」、「Type-Moon」、「エルフ」、「アリスソフト」、「ニトロプラス」、「Innocent Grey」などの数多のメーカーが、後に名作と言われるようなエロゲを量産していた。この辺りに発売された有名なエロゲは、30分枠でのアニメ化を果たしているケースも多い。
しかし、スマホなどの娯楽の増加、エロゲに対する風当たりの強さ、新規参入のしづらさなども相まった今、エロゲ業界では、減少しつつあるユーザーを取り合うという構図ができている。
なぜエロゲ離れが起こったか
これについては3つ理由があると考えている。
①若年層が家庭内でパソコンを使用していない+高年齢層の引退
内閣府の消費動向調査を元に作成された、パソコンの普及率のグラフが下記である。*2
2021年度のパソコンの普及率は78.5%であり、ピークである2016年の79.1%を下回っている。しかし、直近10年間のパソコンの普及率はいずれも75%をキープしているため、この減少幅は誤差である。しかし、次の記事を見てほしい。*3
これは、2019年のパソコン保有率を細かな区分で調査したものを元に書かれた記事である。
上のグラフによると、20代でパソコンを持っていない人は、20代全体の19%に当たる。
また、10代でパソコンを持っていない人は、10代全体の11.3%に当たる。
しかし、上のもう1つのグラフにもあるように、10代でパソコンを持っているが使ってない人は、10代全体の36.6%に当たる。
この記事から、20代はパソコンが自宅にないことが、10代に至っては自分用のパソコンをもっていないということが推察できる。
本来エロゲメーカーが新規層として取り込みたい、大学生を含む10代・20代の層を上手く取り込めない理由はここにあるのかもしれない。
また、高年齢層の引退も、エロゲプレーヤーの減少に直結している。エロゲの黄金期と言われた2000年代前半。そこから15年以上の月日が経過している。結婚・年齢などの理由でエロゲから離れるユーザー数がここにきて増えるのも不思議ではない。
②18禁コンテンツの肩身の狭さ
エロゲは言わずもがな18禁コンテンツである。基本的には18歳以下の人に布教することはよろしくない。かと言って、今まで18年間(またはそれ以上)エロゲというコンテンツに触れていない人に、どのようにエロゲを布教すればいいのか。よほどのことが無い限り、大学生や新米の社会人はフルプライズのエロゲに投資しないだろう。
また、とりわけ日本では「アダルトコンテンツはひっそりと楽しむもの」という認識が強い傾向にある。実際、TSUTAYAのアダルトビデオコーナーに入るのは少し苦手という人が多いかもしれない(堂々と入れるようになると楽しい)。それと同じように、世間体を気にして、堂々と布教できないという現状もそこにはあるのだろう(オタクは陰キャばかりだし)。
③全体的に目新しさが無くなった+様々なコンテンツの台頭
「エロゲ」というコンテンツは1981年に発売した「野球拳」以降、ハードを変えて約40年ほど歴史を紡いできた。その過程で誕生した所謂「名作」と呼ばれるものは、伏線回収のきれいさ、PCで行うことを前提としたギミック、奇抜な舞台設定などで他の有象無象と差別化しているという点は確かにある。
個人的な話だと、「9-nine- ゆきいろゆきはなゆきのあと」の後半で起こる、スキップ不可の強制オートモードになるという演出は良かったと思う。
だが、エロゲは「恋愛」というテーマを主軸に置いている分、設定がどこか陳腐なものになりやすい(学園モノがその典型)。それが数十年続いているなら尚更だ。
また、娯楽の種類が増えたことが、純粋なエロゲ離れの原因になっている点は否めない。直近10年間で、SNS、YouTube、新しい家庭用ゲームの誕生など、新しい娯楽が増えた。そしてなによりスマートフォンゲームの台頭・普及が大きな要因だろう。パソコンをわざわざ起動する手間もなければ、自分の好きな時に切り上げられる。そして終わりがない。時間の無い現代人にとって、スマホゲーはニーズを満たし過ぎたのだった。
ここまで、エロゲ離れが起こった3つの理由を述べてきたが、①と③の理由が特に大きいと思う。そう考えると、エロゲというコンテンツはいずれは淘汰される運命にあったのかもしれない。認めたくはないが。
「PARQUET」が批判されている理由
少し話を元に戻そう。元々はゆずソフトが新作「PARQUET」を発表したことをきっかけに、このブログを執筆しているのだった。
では何故本作がユーザーの間で物議を醸しているのか。私は3つの理由を見出した。
①グッズ展開に重きを置いたかのような宣伝
7月30日のゆず生では、新作の発表以外に
・枕などの寝具グッズの販売
・新規フィギュア製作&販売のお知らせ
・その他新作グッズの宣伝
・15周年パックの製作決定
をアナウンスしていた。これが普段のゆず生ならば良かったかもしれない。しかし、新作発表の期待が取り分け大きかった7月30日放送分での告知は、悪く言えば「論点をずらそうとしている」「新規の情報でごまかそうとしている」と捉えられてもおかしくはないのではなかろうか?
これに関しては、タイミングが悪かったのかもしれない。
②音声作品への進出
同放送でゆずソフトは、音声作品ブランド「YSMR」の設立も発表した。これはDL site限定販売で18禁となっている。
確かに、ダウンロードによる音声作品の売り上げは増加傾向にある。コロナ禍で外出自粛が呼びかけられるなら尚更である。下記は、DL siteを運営する「エイシス」の売上高の推移である。*4
特に25期(2018年度決算)から27期(2020年度決算)の売上高の増加が著しく、2020年度は昨年比155%だった。また、ボイス・ASMRの売り上げは昨年比170%であった。このことから、近年音声作品が売れているかが分かる。
代表的な例では、Vtuber「周防パトラ」が2021年6月14日に発売したASMR作品が初日1万本を売り上げ、全年齢音声作品の初速販売を塗り替えた。*5
また、「9-nine-」シリーズで知られる「ぱれっと」も、2021年度から音声作品に参入している。
なにも、音声作品に手を出すことは悪いことではない。しかし、「音声作品参入という安直な手段に走った」「ゆずソフトらしさが感じられない」と感じてしまうのは私だけだろうか?
③12作目の情報が皆無
放送終盤。新ブランド設立! 新グッズも色々出るぜ! 待ってろよな! 的な雰囲気で終わりそうな放送。「もしかして、ゆずソフトはもうエロゲを作らないのか?」という不安がコメント欄に漂う。だが、製作陣から一言。
「エロゲ新作作っています」
この一言で救われたユーザーも多いのではなかろうか。まあ、僕は信じてましたけどね(震え)!
しかし、いくら「新作を作っている」と言えど、タイトルどころかコンセプトの情報すらなかったことは事実。ユーザーに不審がられても仕方ない。また、「PARQUET」の製作陣が本編と同じであったことから、「新作にかかりっきりで本当はまだ作業に着手してないのではないか」という意見もあった。
2020年度以降はコロナの影響で、多くの会社がリモートワークを取り入れた。ゆずソフトも例外ではない。普段より進捗が悪い1年半を過ごしてきたのだろう。しかし、12作目の新作情報0の原因は本当にコロナのせいなのか。それは製作陣のみぞ知るところだ。
今回の発表の良点
だが、ロープライズの全年齢版の制作に踏み切ったメリットは少なからず存在する。
①新しい可能性の発掘
今回、ゆずソフトは「ロープライズ」「全年齢」という2つの挑戦を試みた。もし「PARQUET」が今までの作品と同等・それ以上にヒットすれば、今までとは別路線でのマーケティングが可能になる。それが「エロゲと全年齢版の同時進行」になるのか、「全年齢版のみに焦点を絞る」のかはさておき。少なくとも、今後の戦略の幅が広がったことは確かである。
②新規層の取り込み
今までのゆずソフト作品は、18歳以上のプレイヤー(高校生を除く)しかプレイすることができなかった。しかし、本作は全年齢版に舵を取っているので、高校生あるいは中学生もプレイすることが可能になる(小学生はまだ早いか)。そのため、エロゲ業界の課題である「若年層の取り込み」が解決される可能性が考えられる。また、ロープライズ作品であることも後押ししている。
しかし、本作で取り込んだ18歳以下の新規ユーザーが18歳になるまで「ゆずソフト」というブランドに関心を持ち続けてもらうためには、ある種の工夫が必要になってくるのだが……。
③次回作への期待
今回は残念ながら12作目の情報開示はなかった。しかしその分、次回作への期待度が高まるのも当然だろう。次回作の開発は確実に進んでいるので、気長に待とう。発売延期が日常茶飯事のエロゲ業界にとって、「待ち」の時間はそれほど珍しくない(ゆずソフトは発売延期をしたことがない)。
最後に ~エロゲメーカーの行く末とは~
ここまで、いちエロゲファンとして思うことを書き連ねた。本当はもっと早い段階で執筆したかった……。
これはどのコンテンツにも言えることだが、現在、少ない国内ユーザーをしのぎを削って奪い合っている状況にある。ゲーム業界だと、他の娯楽の脅威、スマホゲームの台頭が問題となってくる。ゲームは日常生活に不可欠な存在ではないから、相当の知名度とブランド力がなければ生き残ることが難しいだろう。
資本主義社会の原理において、競争に敗れたものは市場を撤退する。それは理屈では分かっているのだが、自分が好きなコンテンツを失うことはあまり考えたくない。
エロゲ業界は確実に衰退している。大手ブランドの解散、エロゲ雑誌「TECH GIAN」の休刊、グッズ展開による延命措置。問題は多岐に渡る。正直私自身、エロゲ業界がここから全盛期まで復興するのは不可能だと思っている。しかし、エロゲの魅力を知った者として、これからも粛々とエロゲをプレイしていくのだろう。
どちらにせよ、我々はエロゲ業界の行く末を見守ることができる。彼らの雄姿を見ることができる。そこに確かに「エロゲ」が存在した証を。
[参考文献]